■出会いはインパクトしかなかった
先週末に親戚のいる地方へ小旅行してました。
その道中に積読本から一冊読み切ろうと思ってお供に持っていった本がありまして。。。
発売された頃に上の試し読み記事を見かけたんですが、その時は「不良を扱ってるSFって読んだことないな……でもこの扉絵の雰囲気は好き」くらいに思いつつ、冒頭だけサラッと流し読みして欲しい本リストに突っ込んで置いていました(発売当時の短い期間だけ表題作の『すべての原付の光』が全編読めたんですが、そこはいずれ買う時に取っておこうと最後までは読まず)。
ただ現在も公開されている範囲で読むことができる、下記の文章のインパクトが強く残っていました。そういうルビってありなのか……という感じで。
公道側のシャッター付近には原付バイクが所狭しと並べられている──その数、合わせて十二台。すべてイキリ中学生から強奪したものだという。
その後、たまたま立ち寄った書店で実際に売られている単行本を見かけ、改めて手にとって見たんですがなんとも奇抜な色味の表紙に、興味を惹かれる各短編タイトル達。
- すべての原付の光
- ショッピング・エクスプロージョン
- ドストピア
- 竜頭
- ラゴス生体都市
タイトルから内容のイメージがわかない、なんていうのはそれほど珍しいものではないとは思うのですが、ことSFに関して言えば何か物語のテーマや方向性を感じさせる程度にはしっくりくるタイトルが付けられているイメージが私にはあります(読み終わってから気付かされることもありますが)。
そういう目線で見た時にこれらのタイトル、何が起こるか想像できるでしょうか。
私はできなかった。だからとにかくぶつかってみることにしました。
そしてぶつかってみた結果、内容に翻弄されまくりました。
確かにSF的な描写がされているはずのお話の合間で、現実に即した謎に解像度の高い地方の不良描写が展開される文章に混乱させられつつ、妙なルビが振られた文章がこれまた妙に自然とするする頭に入ってくる読書体験。
どこかで聞いたことのある単語や言い回しが多数引用されていて、人によってはこの手の文章は好かん!という人もいるだろうとは思うのですが、私は読み進める度にニヤニヤが止まらず「おいおいどこまで行くんだよこれ」とひたすらページを捲って一気に駆け抜けました(なおここまでの話は『すべての原付の光』の部分を読んでいるところまでの話)。
原付を乗り回してイキっている中坊をシメて、謎の刺青マシンに突っ込むんですって。そんで刺青をほどこしたり特別な装置を口の中に仕込んでやってから一・二一ジゴワットの電流を流してぶっ放してやると絶対者がいる向こう側に転移しちまうんですって。
何を言ってるか分からないって? うん、自分もよく分からないで読んでいました。
でも何故か読んでる間は面白くてたまらなくなってるんですよ。
小説を読んでいると物語の中の点と点が繋がって線になった瞬間の気持ちよさ、みたいなものもあったりすると思うんですが、これは違う。
小気味よく印象に強く残る1本の線がひたすらうねり続けたままどこかへ飛んでいき見えなくなって呆気にとられて笑いがこぼれる。そんな感じ。もしくは文章の端々から自分の中の「面白」をくすぐられ続けたまま、ストーリーテラーだけ向こう側へ飛び立っていって置いてけぼりにされる感じ。でもなんだか満足感は残るっていう。
わけの分からなさを楽しめる、というのは波長が合う作品のときにしか成立しないという点で中々味わうことの難しい体験だと個人的には思います。自分が何を面白がっているのかは分かってるんだけど、それはそれとして語られる内容がどこかサイケな色彩をこちらの頭に投射してくるような何言ってんだおめえ感というのは、これだ!と自分から見つけに行くのは中々難しい。
なんでかといえば売れている作品、ウケやすい作品がそういう面白さによって成立することは稀だから。人を選ぶ、といってしまうとちょっと間口が狭まってしまって嫌な感じなので、まずは味わってみてほしい、とばかりに最初の短編がギュッと凝縮された読みやすい長さの短編にまとまっているのはとてもいいなと感じた次第でした。
ちなみにそんな感じのSFらしからぬ文面なのにちゃんとSFをやってるお話は『ショッピング・エクスプロージョン』の方でも展開されますが、それ以外の3作はまた毛色の違った短編になっていました。
『ドストピア』は中間くらいの位置。暴対法的な法律によって母星を追われてしまったヤクザが場末のスペースコロニーでなんやかんやするお話です。なんだそれ。
『ラゴス生体都市』は他のSF作品でも近しいテーマのものを読んだ経験があったためそれほどではなかったですが、『竜頭』で描かれる田舎固有の引力にまつわる話は結構好きでしたね。不気味な怪異が現れる描写は怪談や都市伝説のようでもあり、なんともジメッとした陰湿な雰囲気が流れているお話なのにメイン二人がたどり着く結末は、ちょっとした解放感があって印象的でした。
ただやっぱり個人的には表題作の『すべての原付の光』と『ショッピング・エクスプロージョン』の2作、特に後者が好きでしたね。
そちらの話がどんなものかざっくり端折りつつ説明すると、「超安の大聖堂サンチョ・パンサが世界規模に展開している未来。創業者の死により管理者権限が失われた店舗郡が制御不能となった結果、自然増殖するバイオ商品により無限に売り場・店舗を拡大し続ける現象『買物災禍』が始まった。いずれ訪れる終末を回避するためには創業者が店内のどこかに遺したとされる宝を探し出さなければならない―――」みたいな感じ。ちなみに本文を1つ引用すると以下の通り。
人類に滅亡をもたらすものの正体、それは核戦争でも疫病でもなく、大型ディスカウントストアだったのだ。
……やはりどこかネジが外れている気がする。
でも読んでみると普通にサイバーパンク的な話を真面目にやっていて(というかこれサイバーパンク2077じゃねえか!と設定が重なる部分も多い)、けれども登場する単語や説明に聞き馴染みしかないものが登場するので可笑しみのほうが勝ってしまう事がある、読んでいて楽しくも疲れるお話でした。あと普通にドンキの沿革をなぞった話が興味深かったからもっと知りたくなりました。
ひとまず1種の読書体験としてオススメしたいSF作品だったので、気になった方はぜひ読んでください。SFにかかわらず色んな周辺知識を持って読むとより楽しめる作品になっていると思いました。
